Interview — No.003

「マネジメントではなくプロデュース」歴15年の美容師が語る、技術以上に大切なこと

岩亀 光一 美容師(AMRITA表参道 店長) 2026.01

美容の聖地・表参道。数多の美容室がひしめくこの街で、確かな技術と温かい人柄で多くの顧客に支持される美容師がいます。
表参道の美容室「AMRITA(アムリタ)」で店長を務める岩亀光一(いわかめ こういち)さん。
美容師歴 15 年目を迎え、独立も見据える彼に、これまでのキャリアや苦悩、そして独自の教育論である「プロデュース思考」についてお話を伺いました。

"個人を光らせることって、「マネジメント」じゃなくて「プロデュース」だよなって。
僕自身勉強になりました。"

— 岩亀 光一

Profile

美容師(AMRITA表参道 店長)

東京・表参道で美容師のキャリアをスタート。以来15年に渡り表参道一筋で美容師のキャリアを築く。現在店長を務めている美容室「AMRITA表参道」はOzmall表参道エリアの店舗ランキング1位に輝くほどの人気店であり、自身も表参道エリア別口コミランキング1位の実績を持つ。

とある日のスケジュール
08:30
起床、家族と団らん
10:30
出勤、店舗清掃
11:00
営業開始
21:00
退勤
22:00
夕食
23:00
SNS用の動画編集、情報収集
25:00
就寝
「カットの時の背筋はまっすぐ、姿勢が悪いと下手に見えるので、いつも意識しています。」
本日はよろしくお願いします。岩亀さんの美容師としてのキャリアは今年で15年目になると伺いました。そもそも、美容師を目指したきっかけは何だったのでしょうか?

もともと「昔からなりたかった」というわけではなかったんです。
工業高校に通っていたので、当初は高卒で就職しようと考えていました。
ただ、職場見学に行ったり先輩の話を聞いたりする中で、そこで40年、50年と働き続ける自分のビジョンが見えなかったんです。

それなら好きなことを仕事にした方が楽しい時間が増えるんじゃないかと思い、もともと好きだった「髪をいじること」を仕事にしようと。
決定的だったのは、地元(埼玉県川越市)でいつも切ってくれていた美容室のオーナーさんの存在ですね。
当時、今の僕と同じくらいの年齢で独立されていて、その姿が単純にかっこよく見えた。
「こういう大人になりたい」と思ったのが一番のきっかけです。

専門学校を卒業後、表参道でキャリアをスタートさせたわけですが、最初のアシスタント時代はかなり苦労されたそうですね。

そうですね。一番辛かったのは 1年目です。
同期が5人いたんですが、年内で僕以外全員辞めてしまって。
さらに翌年には新卒の後輩が5人入ってくるというプレッシャーがありました。
「自分が成長できているのか」という不安と、「1年以内に辞めてしまうのか」という自分への不甲斐なさで、かなり塞ぎ込んでいた時期がありましたね。

事前のヒアリングでも仰っていましたが、環七通りの歩道橋のエピソードが印象的でした。

あの頃は、「辞めるのも嫌だし、続けるのも辛い」という板挟みで、環七の歩道橋の上からぼんやりと見下ろしながら、
「ここから飛び降りたら逃げれるかな」なんてことを考えたり……そんな精神状態の時もありました(笑)。

そこからどうやって乗り越えられたのでしょうか?

結局、「明日は来てしまう」んですよね。
立ち向かわないと永遠にこの辛さは続くんだな、と気づいて。
そこからはある種、開き直りというか脳筋(悩みすぎずに行動する)な発想で乗り越えました(笑)。
学生時代の部活と一緒で、練習しないと上手くならないし、人一倍やらないと一人前にはなれない。
考えてもしょうがないから、とりあえずやるしかない。
2年目に入る頃には自然とそういう思考に切り替わっていましたね。

現在は店長としてスタッフの教育にも携わっていますが、岩亀さんの教育論についてお聞かせください。

最近すごく思うのは、「マネジメント」という言葉があまり今の若い子たちに合わないんじゃないかということです。
「マネジメント」というと、どうしても上から操作・管理するようなニュアンスを感じてしまう。
だから僕は、「プロデュースする」というイメージで接するようにしています。

「プロデュース」ですか。面白い視点ですね。

ええ。秋元康さんのように、その子個人の良いところを見つけて、そこを伸ばしてあげる。
もちろん最低限の技術や接客マナーは教えますが、僕が手取り足取りすべて教え込むと、中堅スタッフが育たなくなってしまう。
だから直接的な指導は下のスタイリストに任せつつ、僕は全体を見て、一人ひとりの強みが活きるように導いていく。
それが今の僕の役割だと思っています。

いつも使っているハサミ達。
用具は少ない方が迷う事なくベストなカットが出来ると感じ3本のみにしています。
確かに、今の時代には「個性をどう輝かせるか」という視点の方が響きそうです。

今の若い世代は、SNS で「バズれば OK」と考えがちな部分もあります。
でも、僕たち上の世代が教えるべきは、その土台となる「目の前のお客様と向き合うこと」の大切さだと思うんです。

岩亀さんはずっと表参道・銀座エリアで働かれていますが、この激戦区にこだわる理由はありますか?

お客様側から見た時、やっぱり表参道や銀座というのは「美容のメジャーリーグ」みたいなイメージがあると思うんです。
「ここでやっていれば安心」という信頼感がある。
その分、お客様の目も肥えていますし、求められるレベルも高い。
技術はもちろんですが、接客、立ち振る舞い、お店の清潔感など、すべてにおいて高い水準が求められます。

そのプレッシャーがご自身の成長にも繋がっていると。

おっしゃる通りです。厳しい環境に身を置くことで、自分自身のレベルも引き上げられていく。
それに、このエリアには経営者の方など、社会的に成功されているお客様も多くいらっしゃいます。
そういった人生の先輩方からお話を聞けることも、この場所で働く大きな財産になっていますね。

岩亀さんは顧客のリピート率が非常に高いと伺いました。何か秘訣があるのでしょうか?

新規集客も大切ですが、僕はそれ以上に「来てくださったお客様にどう満足していただくか」に重きを置いています。
具体的には、お客様のライフスタイルに合わせた提案を徹底することです。

ライフスタイルに合わせた提案、とは?

例えば、「朝はシャワーを浴びますか?」「スタイリングに何分かけられますか?」といったことを細かくヒアリングします。
美容室で完璧に仕上げても、翌日自分できれいにできなければ意味がないんです。
朝忙しい方には「濡らして 1 分で決まるスタイル」を提案したり、今の髪質や生活習慣との乖離を埋めていく作業ですね。

確かに、再現性は重要ですね。

「可愛くする」「カッコよくする」のはプロとして当たり前。
そこから一歩踏み込んで、「その人の生活の中で一番輝ける状態」をプロデュースする。
そうやって信頼関係を積み重ねてきた結果が、今の高いリピート率に繋がっているのかなと思います。

最後に、今後の展望をお聞かせください。

15年目という節目を迎え、やはり自分の夢であった「独立」に向けて動いています。
自分が得意とする接客や技術をベースにしつつ、お客様一人ひとりと真摯に向き合えるお店を作りたいですね。
そして、僕が先輩やお客様から学ばせてもらった「技術以上に大切なこと」を、次の世代にも伝えていけたらと思っています。

長くなってしまいましたが、インタビューは以上となります。
本日は貴重なお話ありがとうございました!

はい、こちらこそありがとうございました!

岩亀さんの History
21 2013
山野美容専門学校を卒業、アシスタント生活がスタート
表参道の男性のストレートパーマ特化の美容室で2年勤務
23 2015
表参道の女性のドライカット特化の美容室で2年勤務
25 2017
最初の店舗で先輩が独立をした表参道のメンズパーマ特化のお店でスタイリストとして2年半勤務
26 2018
23-25歳で働いていたお店(AMRITA)に出戻り、メンズ集客に注力
27 2019
店長として勤務、Ozmallの表参道エリア別個人口コミランキング1位に
28 2020
Ozmall表参道エリア、店舗ランキング1位に
33 2025
独立を視野に入れSNSに注力する
34 2026
年内独立予定
旅行が好きなので、宮古島での記念の1枚。

岩亀さんにとって美容師とは

お客様を通して自分が成長できる仕事。
接客を経て感じた苦悩や学びを後輩だけでなく若いお客様たちにも伝えられるのは、
美容師ならではの特権であり、同時に大人としての役割かなと思っています。
歌舞伎町のホストよりも、表参道の美容師のほうがお客様のリアルを知っている……
こんな面白い仕事は他にありません。

僕のアナザースカイ笑
ともいえる『屋久島』。
何度も旅に行く度に人、水、空気、ご飯、星空
全てに癒されるのでオススメです。
Staff's Note 稚依むにた

今回、取材同行という形で立ち会わせていただきました。

お話を聞き進める中で、岩亀さんは美容師としての技術と同時に、
「人と向き合う」ということを、非常に丁寧に、かつ高い基準の環境で積み上げてきた方だという印象が強く残りました。

インタビュー中の会話のリズムや言葉選びから感じたのは、
相手をコントロールするのではなく、
その人が無理なく力を発揮できる位置を一緒に探そうとする姿勢です。

これは美容師という職業に限らず、
ビジネス全体、さらには経営サイドに立つ人たちに共通する

一種の「構え」のようなものだと感じました。

初めて会う私たちに対しても、スタッフさんに対しても、お客様に対しても、
きっとご家族に対しても、
本質的に誠実なコミュニケーションをされているのだろうという、
静かな信頼感があります。

特に印象的だったのは、
すべての受け答えの軸が
「お客様が生活の中で一番輝ける状態をつくる」という一点に
一貫して集約されていたことです。

施術の場だけで完結させるのではなく、
日常に戻ったあとも再現できることを大切にする。
それは髪型の話でありながら、
私たちビジネスに携わる側の感覚にも重なって聞こえました。

表参道という厳しい環境に身を置き続けている理由も、
ブランドや肩書きのためではなく、
自分自身の基準を保つためなのだと感じます。
だからこそ、言葉や所作に無駄がなく、安心して任せられる空気があるのだと思います。

ここは、
「とりあえず切ってもらう場所」ではなく、
「自分の状態をきちんと見てもらえる場所」です。

通い続ける方が多い理由が、自然と腑に落ちました。

結論、上京したビジネスマンはまず「髪にまつわること全ての望みや悩みは岩亀さんに任せておけば安心」と言えます。

Interviewer's Note 権上 裕介(TOKYO≠LICKS 主宰)

私が5年以上お世話になっている美容師の岩亀さんに、今回インタビューをさせていただきました。
初めてお邪魔した時から、ヒアリングの正確さ、顧客との距離感の取り方、
そして施術技術に至るまで、その一つひとつのレベルの高さに驚かされると同時に、
「これまで岩亀さんにカットしてもらってきた自分は、相当恵まれていたんだな」と感じたのを覚えています。

店長という立場を任されているからこそ、今回は普段なかなか聞くことのできないマネジメント
——もとい「プロデュース」という考え方について、じっくりと話を聞くことができました。
スタッフ一人ひとりを“管理する”のではなく、“どう輝かせるか”を考える姿勢。
その信念に触れたことで、これまで私自身が顧客として見てきた岩亀さんとは、また違う一面を知ることができたように思います。

また、個人的な話になりますが、
困難に直面した時の向き合い方や、思考の切り替え方については、
驚くほど自分自身と重なる部分が多く、勝手ながら強い共感を覚えました。

15年というキャリアの中で、決して順風満帆だったわけではない。
それでも「目の前のお客様と真摯に向き合うこと」を積み重ねてきた結果が、
今の信頼や実績に繋がっているのだと、改めて感じさせられるインタビューでした。

本記事を通して、
美容師という仕事の奥深さや、
“技術以上に大切なもの”の存在が、少しでも読者の方に伝わっていれば幸いです。

末筆ではありますが、素敵なインタビューありがとうございました。
独立された際は、是非ともお邪魔します!

取材・原文 / 権上 裕介(TOKYO≠LICKS 主宰)